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言えなかった言葉


Sound Horizon「Roman」の彫刻家とその妻のお話。

オーギュストは奥さん大好きだったんだろうなぁ…と思うのですが
それをどうやったら表現できるものか…orz
コミック『Roman』の夫婦が、イメージにぴったりなんですけどね…!

そんなこんなで
たまには受けくさくないオーギュストの話を…。
















言えなかった言葉があった――――――――























「あなた…また来てくださったのですか。
 嬉しいですけど…お仕事の方は大丈夫なんですか?」




そう言って、彼女は少し呆れたように笑った。
もう秋も終りに近いというのに、今日は随分と暖かい。
病院の窓は大きく、
陽の光をいっぱいに受けた金色の髪が、柔らかく光っている。




「…大丈夫だ。それに、仕事など、やろうと思えばいつでも出来る」




また、少し痩せたようにみえる。
顔色もあまり良くない。
元々色は白かったが、今はどちらかというと蒼いといった方が適切だろうか。




「またそんなことを言って…。私なら大丈夫ですから、ちゃんとお仕事なさってくださいな」


「…分かっている。私のことはいいんだ。お前は、自分の身体を治すことに専念しなさい」


「心配性なんだから…。大丈夫ですよ。私、ちゃんと元気な子を産んでみせますから」




彼女は、妊娠していた。


子を授かるということは、本来ならば喜ぶべき「好事」なのだろう。
だが、身体の弱い彼女にとってそれは、命に関わる「問題」だった。
私はもちろん反対をした。
子どもを下ろすようにと何度も話し合った。
妊娠、出産が、彼女にとってどんなに負担かを言って聞かせた。




だが、彼女はきかなかった。




結局私が折れる形となり、
彼女は出産を無事に終えるまでの間、入院させることに決まった。
私が会いに行くと、彼女はいつも「大丈夫だ」と言って笑った。
しかし、彼女が日増しに弱ってきているのは明らかだった。
そして、それと反比例して大きくなる腹。




「この子、順調に大きくなっているらしいですよ。健康で元気な子ですって」


「……そうか」




誇らしげな笑顔。
何故、彼女は笑っていられるのだろうか。
自分の命が危ういというのに。
正直に言って、私はこんな子どもなど、要らなかった。
彼女さえ傍にいてくれれば、それで良かったのだ。
それに、この子どもは、彼女の生きる力を奪って成長しているように思えて仕方なかった。
この子を嫌悪している自分に気付いてはいたし、
彼女もおそらく分かっているのだろうと思ったが、抑えることはできなかった。




「もう…。…そうだ!あなた、今度の作品は私とこの子をモデルにして造ってくださいな!」


「え…?お前と…その子を?」


「ええ。出産のお祝いに!」


「……まぁ…それは、構わないが…」


「本当!?嬉しい!約束ですからね!」




妻は満面の笑みを浮かべて、私に小指を差し出してきた。
…まるで子どもだな。




「…あぁ。約束だ」




だが、
私も小指を差し出し、彼女のそれに絡めた。
己の半分程の太さしかない、白い小指。
それでも彼女の笑顔は、美しかった。




その後暫くして、子どもは無事に産まれた。




その子が男の子だったと知ったのは、また暫く後のこと。
私は、子どもなどに構っている余裕は無かった。




「彼女に話があれば…早めに、済ませておいてください」と、
その日の朝に、医者から告げられていたから。




彼女はもう、ベッドに横たわったまま、半身を起こすことも出来なくなっていた。
私が手を握っても、握り返されることも無い。
蒼白な顔色で、
それでも彼女は、いつものように笑みを浮かべて私を見つめた。
力無い瞳。
まるで子どもに向けるような、温かい眼差しで。




「…ねぇ、あなた…。約束…、覚えていますか…?」




か細い声。
その声があんまり弱々しくて、動揺した。
だがそれを悟られてはいけないと、慌てて口を開いた。




話したいことは沢山あった。




「…やく、そく…?」


「えぇ…。私と、あの子をモデルにしてくれるっていう…」




言うべきことも沢山あった。




「ああ…。覚えて、いるとも…」


「…彫刻、やめないでくださいね…。私…あなたの作品が、大好きだから…」





それなのに、言う事が出来なかった。





「あぁ…分かった。分かった、から…だから、」












死なないでくれ、と。












そう言ってしまえば
彼女が“死ぬ”ということを認めてしまうような気がして―――――――












カ ン――――…




彫像を彫る手を止めた。
形を成していない、無機質な石塊。
そっと指で触れると、ひやりとした硬い感触が掌に広がった。
溜息も白い。


冷えた掌に視線を落とした。


幾度冬が訪れようとも、忘れることはできない。
この手のなかで消えていった温もり。
この手で消そうとした温もり。




この手が、一体何を創れるというのだろうか。




…否。
この手が創れるものなど何もない。
あまりに『死』に触れ過ぎたこの手では
何かを『生』み出すことなど、もう出来はしないだろう。
ものをつくり出す彫刻家としての私は、死んだも同然だった。


しかし、
それならば…
Auguste Laurantという一人の人間として。





せめて、あの日の約束だけでも―――――――




はぁ、と掌に息を吐き掛け、彫刻刀を握り直す。
石を削る音が、再び辺りに響き渡った。




「…私は…これをつくり上げることができるだろうか…」








さようなら

                            ごめんなさい


             ありがとう








言えなかった、たくさんの気持ちを籠めて。






嗚呼…あの子は、


彼女は、笑ってくれるだろうか―――――――――






2008⁄11⁄29(Sat) 19:18   .SoundHorizon ss | Comment(0) | | ↑Top


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(2012/01/19)
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